理科の授業がもつ可能性 命をまもる科学の教育

理科の授業がもつ可能性 命をまもる科学の教育

教育応援の「種」 こんな取り組み、いかがですか?

理科の授業がもつ可能性

命をまもる科学の教育

平成24年に東京消防庁管内で発生した急性アルコール中毒の搬送件数は11976件にのぼり、うち約半数は未成年もしくは20代の若者が占めています。こうした実状に対し、各種機関・企業により、警鐘を鳴らすポスター掲示をはじめ、小中高校生向けに、数々の啓発資料も作られています。例えば未成年に対する説得材料としては、脳障害や性腺機能障害などが挙げられていますが、その情報が生徒の目に触れる機会はまだまだ十分ではありません。保健の先生に限らず、理科などの教科の中でも、学校教育のカリキュラムとの結びつきが見えれば、実際に授業の中で先生方が話題にすることもできるのではないでしょうか。

生物の授業で伝える、未成年飲酒の危険性

 近年の研究では未成年の大量飲酒は海馬など脳の萎縮への影響が成人よりも大きいことや、飲酒開始時期が早いほど依存症になりやすいなどの影響もわかってきています。実際、このような身体の反応は、高校生までに学習する生物学の知識の積み重ねで理解できることが多くあります。例えば、発生の単元。学校で学ぶのは胚発生が中心ですが、広義で捉えれば、生殖から死に至るまでの細胞・器官の変化を指し、老化や再生、細胞の分化や細胞死も発生の一過程に含まれるのです。先述の脳を例にとると、脳の神経細胞は誕生後も盛んに分裂し、6歳頃までに大人の脳の大きさの90~95%に成長します。12歳頃までに樹状突起が発達して神経細胞同士で複雑なネットワークが作られ、その後20歳頃までかけて不要な細胞やネットワークを減らすなど効率の良い脳神経ネットワークを作り上げ、成熟した脳になっていくのです。細胞の発生は外部因子の影響を受けることがわかっています。脳は、血液脳関門によって血液と物質の出入りを制限していますが、アルコールやその代謝産物であるアセトアルデヒドは血液脳関門を通過することができ、脳の細胞の発生に影響を与える可能性があります。ゆえに、未成年飲酒は危険なのです。 「高校では、脳の機能についてはそれほど詳しくは学びません。しかし、脳は私たち人間の本質であり、徐々にその構造が明らかになってきている先端の分野です。生物学の細胞分化・発生・代謝などの単元と結びつけて脳について考える機会がつくれると良いと思います」と遺伝子や脳科学に精通し数々の著書の執筆者である東京大学石浦章一教授は話します。

命をまもる科学の教育、一緒に始めませんか?

 欧米では未成年飲酒の危険を説く教育が発達しています。例えばスペインではNPOが主導して “アルコールと未成年”という中高生向けの教育プログラムを確立しています。教師・生徒・保護者それぞれに向けて作られた教本では、アルコールが体内で分解される仕組みや未成年飲酒が危険な理由について解説され、評価用のアンケートと共に、学校教育の中で提供されています。この10年間で受講生は179万人にのぼります。「なぜ理科を学ぶのか、それは、社会で起こっている課題や危険を理解し、自らの生活や命を守るためだと思います。世界的にも理科教育の方向性は少しずつそのようになってきているように感じます」と話す石浦先生は、理科の授業がもつ可能性に強い期待を持っています。日本では、全員が理科を学ぶのは高校生まで。社会で危険と言われていることがなぜそうなのか、高校の授業の中で科学的根拠をもとに考える機会を増やしていくことで、将来自分と周囲の命をまもれる大人を育てることができるのではないでしょうか。

取材協力:石浦章一教授

国立精神・神経医療研究センター、東京大学分子細胞生物学研究所を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授。理学博士。分子認知科学の研究者で脳の遺伝子研究の第一人者。

 

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ペルノ・リカール・ジャパン株式会社は、20歳未満の飲酒とイッキ飲みの撲滅を目指し、飲酒に関わる事件・事故を無くす啓蒙活動を推進しています。