STEM教育について考える グローバル・リーダー育成に「自然(Nature)」を忘れていいのか?(教育応援 vol.22)

STEM教育について考える グローバル・リーダー育成に「自然(Nature)」を忘れていいのか?(教育応援 vol.22)

最近よく耳にする『グローバル人材』。アメリカは、STEM*(Science, Technology, Engineering and Math)教育をその答えの一つとしてあげています。世の中では、世界で活躍するリーダーが求められていますが、次世代を担うリーダーが学ぶ基礎として重要になる要素は、本当にこの4つでいいのでしょうか。株式会社リバネス丸幸弘(代表取締役)と楠晴奈(教育開発事業部長)、徳江紀穂子(国際開発事業部、リバネス・マレーシア代表)の3名は、STEMに代わる「NEST (Nature, Science, Engineering and Technolog y)」を提案します。※3名の所属・肩書は記事制作当時の所属・肩書となります。

 

似て非なるScienceとNature

丸:僕は今、非常に不安を抱えている、恐怖さえ感じています。それは、STEM教育の中に、N(Nature)が入っていないことです。「自然」を学んでいない人がリーダーになる。これは問題ではないだろうか。

徳江:私も、そう感じています。自然から学べることはたくさんあります。そして、人間も自然(Nature)の一部だと捉える観点も必要だと思います。

楠:サイエンスの中にネイチャーは、含まれないですか?

丸:サイエンスとネイチャーは違う。サイエンスは人が存在することで初めて生まれたものだよね。ちょっと考えてみよう。人間が存在する前、地球には何があった?

徳江:海や大気、火山などですね。

丸:それが「ネイチャー」だよ。その地球に生まれた人は、自然の中で暮らしながら考えました。毎日、狩猟に行くよりも家の近くで食物が取れるようになったらいいなぁ。じゃあ、畑を作ろう。そんな風に自然の中で生きる工夫をした結果、生まれたのがエンジニアリングです。いろいろなエンジニアリングが生まれていくと、そのうち疑問が生まれてくる。どうして、川向うの家は災害に強いんだろう?どうして隣の畑はたくさんの作物が取れるんだろう?その疑問を解明するために発展したのがテクノロジーだよ。

楠:なるほど。ちょっと乱暴に言うと、なぜかはわからないけど、できちゃった。というのがエンジニアリングで、なぜその形がいいのか?という法則を見つけ出して応用していくのがテクノロジーという感じでしょうか。同じように、蝶が飛んでいる、春になると花が咲く。それは自然の現象そのものですよね。そこから、蝶はなぜ花を見つけることができるんだろう?飛ぶしくみはどうなっているんだろう?と考えて解明していくとサイエンスになるんですね。

丸:そう。自然からはサイエンスが、エンジニアリングからはテクノロジーが進化する。

徳江:私もタイやオーストラリアの自然の中で鳥の繁殖行動を観察する研究をしていたけれど、自然はあくまでも自然で、そこに私の頭の中で生まれた「なぜ?」を自然に向けて投げかけて初めて「研究」になる、というのは実感としてわかります。

丸:サイエンスの研究者はみんなそうだよね。私たちがこの世界を理解する学びの流れとして、最初に自然(ネイチャー)を知ること、そして生きるためにうまれたモノづくり(エンジニアリング)に触れ、それからサイエンスとテクノロジーを学んでいくことが自然じゃないかな。ネイチャーとサイエンスは、似て非なるモノだということをちゃんと子どもたちに伝えなければいけない。STEMという言葉にとらわれて、「Nature」が欠落した概念が広がってしまうとしたら危惧を感じるね。

 

科学者は、 「何でも知っている人」ではない

楠:最近、テレビなどでも科学に触れる機会が増え、科学者・研究者の「イメージ」みたいなものもできてきたように思います。それはいい点でもありますが、「将来は何でも知っている科学者になりたい」という子どもや「研究者は何でも知っているハカセなんだよ」という保護者の言葉を耳にすると少し不安になりますね。それは冒頭の「サイエンスとネイチャー」の違いを理解しているか、ということにもつながっているのではと思います。

丸:科学者とは、自然の摂理を知ろう、とありったけの知恵を絞って探究し続ける人の事であって決して全能ではない。サイエンスもテクノロジーもあくまでも理解を深めるための過程であることを忘れてはいけないよね。

楠:サイエンスは未知だらけの自然に必死に立ち向かっている人間の知恵ですよね。科学者は何でも知っている人ではなく、知らないことが何かをわかっている人、というのが正しいと思います。私たちが行う実験教室でも、子どもたちには、自然の中にある「わからないこと」に挑戦しているという研究者の姿をもっと見せなくてはいけないと思います。

丸:そう。でも、急激な科学と技術の発展の影響であたかもサイエンスとテクノロジーは万能で、自然さえも再生する事が可能であるといった幻想が生まれつつある。サイエンスとテクノロジーが生まれた原点であるネイチャーとエンジニアリングを忘れているんですよ。

 

グローバル・リーダーを育てる 「NEST」

徳江:どのような人物がグローバル・リーダーにふさわしいのかということについてははっきりとした定義が無いように思いますがどう思いますか?

丸:それぞれの国に言葉という共通言語があるように、グローバル・リーダーにも共通言語が必要だよね。それが、ネイチャーとエンジニアリングの理解だと思う。

楠:グローバルとか国際化というと、どうしても「英語!」というイメージが先に来てしまいますよね。世界の仲間とコミュニケーションを図っていくためには英語や数学といった共通言語は必要ですが、それが必須ではないと思う。

丸:そう、人間を含めた生態系や地球システムといった地球規模の視点で世界を捉えられない人がサイエンス&テクノロジーを本当に理解できるのか?リーダーとして決断を下すことができるのか?それはNoだと思う。

徳江:答えの予想できないような問題・課題がこれからどんどん出てくると思います。その時に、既存の枠に沿ってしか考えられないようだと難しいですね。

丸:「本当にこれでいいの?」「なぜそうなの?」という疑問をもてるようになるには、まず勉強が必要なんだよ。ある程度の知識なしには、疑問も生まれてこない。そして、問いが生まれたときにはさらに知識が必要になる。この問いと勉強の繰り返しができることが重要だよね。

徳江:まさに研究のプロセスそのものですよね。

丸:STEMにしてもNESTにしても、サイエンティストの育成ではなく、グローバル・リーダーの育成を考えるなら、人間に限界があることを知っているリーダーを育てなければ地球は破壊されてしまう。サイエンスやテクノロジーは常に発展途上であることを知りながら、常に自然に学び、問いを持ち、仮説を検証できるスキルを身につけることがグローバル・リーダーになるための一歩だと思います。

 

*STEM(Science, Technology, Engineering and Math)教育とは

2010年9月に大統領科学技術諮問委員会(米国)は、Prepare and Inspire: K-12 Education in Science, Technology, Engineering and Math (STEM) for America’s Future(訳)「準備し触発せよ:米国の未来のための科学・技術・工学・数学における幼児教育-初等中等教育」を 大統領に提出したのが始まり。科学技術人材の育成を目指し、今後10年で100万人の科学・技術・工学・数学分野の専門家を増員する計画。

参照:科学技術動向2013年1月・2月号 P. 17-26 http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-STT133J-2.pdf