「マイナス」を 「ゼロからプラスにする」への転換 株式会社エンバイオ・ホールディングス

「マイナス」を 「ゼロからプラスにする」への転換 株式会社エンバイオ・ホールディングス

株式会社エンバイオ・ホールディングス 代表取締役 西村 実さん

「事業について色々な準備が整ってきた今だからこそ、次の時代を共に創っていくことができる仲間や研究シーズを探したい」。
そう話してくれたのは第20回リバネス研究費「エンバイオ賞」を設立する株式会社エンバイオ・ホールディングスの西村実さん。
同社は、土壌汚染対策事業、土壌汚染関連機器・資材販売事業、ブラウンフィールド活用事業の3つの柱によって、国内外の土壌汚染対策を行っている。

今まで行ってきたのはマイナスをゼロにする仕事

端的に言うと、エンバイオ・ホールディングスの事業は土壌や地下水の汚染された部分を浄化することに集約している。
同社の事業は、土壌の汚染具合を調査・解析し、浄化方法を検討・提案するサービス、浄化工事に必要な機器や資材を取り扱うサービス、浄化した土地を適切に売買できる状態へ持って行くことで土地の資産価値を向上させて市場に出すサービスの3本柱で成り立っている。
土壌浄化方法の検討から、工事の実施、浄化された土地を市場に戻すまでを一気通貫で取り扱える体制が整っていることが強みだ。
この会社の土壌汚染対策事業は、従来からある、汚染された土壌を掘削して取り除き、跡地に清浄土を埋め戻す方法とは異なっている。
汚染土そのものを入れ替えるのではなく、「原位置浄化」と言われる手法で、そこにある汚染をケミカルやバイオテクノロジー等様々な手法を用いて浄化するというアプローチだ。高度な技術力を要するため、実施できる会社も多くはない。平成24年には、汚染土壌に関する法律の策定まっただ中の中国における法人の設立も行っており、技術展開の準備を進めている。
「中国はね、汚染の度合いも、規模感も日本とは桁違い。現在の日本では、土壌を掘削除去して埋め戻すのが主流な方法ですが、中国では汚染範囲のスケールが違いすぎて同じことができません。そこで、私たちの原位置浄化の技術に注目をしていただいているんです」。グローバル展開の第1歩を踏み出し始めている、今勢いのある企業なのだ。

これからは地表下にあるあらゆる資源をプラスにしていく

次に目指すところを聞くと、「これまでやってきたことは、土壌のマイナスになっている部分をゼロにまで持っていくための仕事。これからは、ゼロに付加価値を足してプラスにできる事業にしていきたい」と西村さんは語った。
「私たちは、汚染された土壌の状態を法律上問題がないレベル、つまり、基準点に戻す為の方法を模索し、解決方法を提案してきました。
これが発想の原点になっています」。必要となる人材は、その時々で採用し、事業を回してきた。
結果、地質学に水文学、浄化につかう薬品を取り扱う為に化学とバイオ、そして工事に必要になる土木工学。
これらの分野の人材が結集し、土壌のマイナス要素をゼロにできるチームをつくり上げることができてきている。
チームが構築されていくに伴って、やりたいことができるようになってきたが、これはあくまでも当初の事業での終着地点。
体制が整ってきたからこそ、ゼロから更にプラスにしていくという新しい事業までが視野に入ってきているのだ。
対象は、地下資源、地下水、地熱、土壌等、地表より下にある素材に関する事業全般である。
例えば、地下資源としてわかりやすいのは水源だ。現段階では、地下水が結果的に何に使われているかまではケアされていない。
地下水1つをとっても、飲料水、工業用水、農業用水、はたまた近年ではエネルギー用途等、様々な使い方がある。
その地下水の用途に応じた土地の状態に改善することを提案できるようになれば、より適切なコストで充分な機能性を担保する土壌汚染対策ができるようになるだろう。
もちろん、地域によって土壌の構成は全く異なるし、地下水には流れがあるので、簡単なことではない。
それでも、「今そこにある土壌の内部だけでなく、もっと広い視点で土地を活かすことを考えることができるようなチームになれば、新しくプラスの価値を生み出すことができるのではないかと考えているのです」と西村さんが話していたのが印象的だった。

面白いことをやっているのに、それに気づいてない人っていますよね?

西村さんが、新しい出会いに関心があるというのには理由がある。
既存のコミュニティで出会わない、この業界に役立つかどうかを知らずに研究している人が多くいると思うからだ。
今から20年以上前、西村さんが日本総合研究所に所属していた時代に、アメリカ出張から帰った上司からバイオテックを使って有機塩素系の汚染物質を浄化するというアプローチの研究テーマを聞いた。
現在の同社の中核事業に関わる技術だ。国内で同じような研究を行っている研究者を調べてみると当時はほとんどおらず、最終的にたどり着いたのが国立環境研究所。西村さんの調査当時は、研究内容を何に使うのかについての検討はあまりされておらず、お世辞にも日の目を見るような研究ではなかったという。
先生に研究内容について、「何に使うのですか?」と問えば、「それが課題ですね」という返答が返ってくるような状態だった。
アメ リカでの事例を話すと「私の研究がそのように役に立つのですか!」と驚いていた。
その後、先生はあれよあれよという間に自らの領域を切り拓き、国内研究の第一人者となった。

面白いことをやっている研究者はいる。
しかし、それに気づいてない研究者もまた、いる。「我々は土壌についての事業経験は多く持っているが、付加価値をつけていくという点に関して言えば現状シーズをもっていない。
何に役立つかわからないような研究シーズでも、頭に入っていればどこかで面白い、新しいことができる可能性がある」。
西村さんは、適切に出会うことで花咲いた人・技術を知っている。
だからこそ、今すぐには一緒に仕事ができない様な技術との出会いも大歓迎だ。地表以下の世界で将来的に何か一緒にできそうな人たちと、今このタイミングで出会っておくということに強い意欲を持っている。(文吉田丈治)

リバネス研究費エンバイオ賞
「土壌汚染対策・地下水・地熱・地下資源等、地表下に関する全ての研究」

助成内容:研究費上限50万応募締切:2014年11月30日(日)24時まで(詳細は下記バナーをクリック)

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|西村実さんプロフィール|

大阪大学工学部発酵工学科を卒業後、化学会社に入社、酵素の生産プロセスの開発に従事。1990年に(株)日本総合研究所に移籍。米国で事業化されていたバイオテクノロジーを用いた土壌地下水浄化に興味を持ち、土壌地下水汚染問題に取り組む。2001年にエンバイオに移籍。2003年に土壌汚染調査・対策を行う事業会社を設立し、今日に至る。