FG beadsが ケミカルバイオロジーに齎す新展開

FG beadsが ケミカルバイオロジーに齎す新展開

1953年、ワトソンとクリックのDNAニ重螺旋構造の発見より始まったとされる、モレキュラーバイオロジー(分子生物学)。分子レベルで生命現象を解き明かそうとする学問だ。その技術発達は非常に早く、わずか50年後には約30億塩基のヒトゲノムの解読も終了した。あたかも生命の全ての謎を解明したかのような期待が盛り上がった。しかしながら、そこにはポストゲノムと呼ばれる広大な世界が待っていた。未だ生命の謎は無数に残されている。そんな状況で同時に盛り上がりを見せつつあるのがケミカルバイオロジーだ。

ケミカルバイオロジーとは何か

ケミカルバイオロジーはバイオケミストリー(生化学)とは当然異なる。バイオケミストリーは生体物質の合成や分解が起きる仕組み、それらが生命の中で持つ役割を化学的な視点から解明する学問領域である。ケミカルバイオロジーはDNAやタンパク質等の生体物質と特異的に相互作用する有機化合物を活用し、生体物質の機能を解明するアプローチである。生命科学と化学が融合し、ポストゲノム時代の効果的なアプローチとして世界的にホットになりつつあるのだ。例えば、遺伝子をノックアウトすることなく、化合物でターゲットタンパク質の一部分の機能を阻害することでその機能を解明することができる。つまり、従来の分子生物学的手法では解明できなかったタンパク質の機能が発見される可能性がある。また、ケミカルバイオロジーは有機化合物と生体物質の相互作用に関する研究であり、臨床治療薬など有用な化合物開発に直結する可能性があることからも注目を集めている。日本では2008年に日本ケミカルバイオロジー学会が発足し、創薬を視野に入れた研究が盛り上がりを見せている。実は学会発足の前の2003年から、多摩川精機はこのケミカルバイオロジーに着目して研究開発をスタートしている。

多摩川精機がFG beadsで目指すもの

多摩川精機は1938年に創業された精密機械メーカーだ。モーターやセンサー技術を主力として、航空・宇宙・防衛関連製品、工場設備関連製品等の製造、販売を行っている。創業以来、地域経済に貢献することを使命とし様々なチャレンジを行ってきた中で、2003年から東京工業大学の半田宏教授(現 東京医科大学 教授)をプロジェクトリーダーとした「ナノ微粒子利用スクリーニングプロジェクト(NEDO)」に参画した。プロジェクト終了後も共同研究を継続してナノ磁性微粒子の製造技術を確立。これがFG beadsだ。

FG beads(図1)は、複数個の磁性体の周りをポリGMA(グリシジルメタクリレート)と呼ばれる特殊なポリマーで被覆した直径約200nmのビーズである。他社製品と異なりビーズの中心に磁性体を配置すること、また均質な粒子形成に成功している。一般的な磁性ビーズに比べ、粒子径が小さいため、比表面積が大きく、分散性も高い。そのためターゲットが効率よく結合することができる。FG beadsは有機溶媒耐性をもつことから、様々な反応条件にも対応でき、加えてポリGMAで被覆されていることにより、タンパク質の非特異的な吸着を抑えることができる。固定化するリガンドにあわせて12種類のFG beadsから適切なものを選択し、リガンドを固定化、そのリガンド固定化ビーズを用いてリガンド結合タンパク質の精製を行う (図2)。開発者の半田教授はFG beadsを用い、サリドマイドの標的タンパク質を同定した1)。50年来のサリドマイドの催奇形性の謎を解く大きな一歩となったのだ。更に、FG beadsの磁気分離・分散を行なうスクリーニング自動化装置Target Anglerにより、多サンプル同時処理、時間短縮が可能となっている。

図2 リガント結合タンパク質の精製 リガンドを固定化したビーズとそのリガンドの結合タンパク質が存在するタンパク質溶液を用いアフィニティ精製をしている様子。

図2 リガント結合タンパク質の精製
リガンドを固定化したビーズとそのリガンドの結合タンパク質が存在するタンパク質溶液を用いアフィニティ精製をしている様子。

試薬販売だけで終わらない、受託によるノウハウ提供

リガンド固定化ビーズを用いた結合タンパク質の精製は、リガンド合成やリガンド固定化には有機化学の知識・経験を必要とし、細胞破砕液の調製やタンパク質精製にはバイオの知識・経験を必要とする。リガンド固定化には、活性を考慮した固定化や固定化量の最適化のノウハウがある。タンパク質精製はバッファーの塩濃度や界面活性剤の条件、ターゲットとなるタンパク質の生化学的性質などにより、その変数の多さから条件検討は困難な場合が多い。このため、多くの経験を必要とする実験の代表選手とも言える。そこで、多摩川精機ではFG beadsの販売だけでなく研究支援受託サービスも展開しており、必要なサービスのみを選ぶことができる。

1.リガンドのデザイン、合成

ターゲットとなるリガンドがFG beadsに固定化するために有効な官能基を有していない場合、また固定化部位に選択性を持たせたい場合、新たに官能基を導入したリガンドをデザインし、合成する。

2.FG beadsへのリガンドの固定化

リガンドをFG beadsに固定化し、固定化量の定量または固定化確認実験までを実施。

3.リガンド結合タンパク質の精製

リガンドを固定化したビーズとそのリガンドの結合タンパク質が存在するタンパク質溶液を用い、アフィニティー精製を実施。

4.競合阻害、ドラッグエリューション

結合タンパク質の化合物特異性を確認する。

5.MS解析(タンパク質同定)

結合タンパク質の質量分析による同定。

地域経済を盛り上げたいという思いで始まった多摩川精機の事業は、バイオ研究の支援まで事業領域が広がっている。新たなるパートナーとの出会いは、皆さんの研究を加速させることとなるだろう。

1) Ito T, Ando H, Suzuki T, Ogura T, Hotta K, Imamura Y, Yamaguchi Y, Handa H., Identification of a primary target of thalidomide teratogenicity. Science. 327(5971):1345-50, 2010.

多摩川精機株式会社 バイオトロニックス研究所