「マッコウクジラがダイオウイカを捕食する音を録りたい」海洋研究を支えるアクアサウンドの挑戦

「マッコウクジラがダイオウイカを捕食する音を録りたい」海洋研究を支えるアクアサウンドの挑戦

株式会社 アクアサウンド 代表取締役社長 遠藤 保彦 さん
代表取締役会長 水産学博士 笹倉 豊喜 さん

「マッコウクジラがダイオウイカを捕食する音を録りたい」、「イルカの声を水中で再現したい」。水の中を直接見ることが困難な海洋で、”音”は極めて重要な情報源となる。陸上で見えるものが、海の中では視界の悪さや水深が障害となり観察できないからだ。今回取材をした株式会社アクアサウンドはものづくりの情熱を海洋研究に活かし、開発に打ち込んでいる。

自身のものづくりの腕で、研究者をサポート

「僕らの根本にあるのはものづくりに関われる喜びなんですよ。自分たちが好きだからできるんです。」と語るのは、株式会社アクアサウンド代表取締役会長の笹倉さんと社長の遠藤さんだ。大手メーカーで長年、水中音響機器を手がけていた2人は既存の製品が研究者のニーズに応えられていないことに気づく。海洋研究で水中の音響機器は欠かせない。目視することが難しい水中ではイルカやクジラなどの海生哺乳類の鳴き声を捉えて行動や生態を把握し、超音波を利用して魚などの水産資源量を推定することができる。海洋音響機器には様々なものがあるが、研究者が個々の研究テーマにあわせて機器をつくることは難しかった。「学会などで知り合いになった研究者の方々から、是非日本で機器を開発して欲しいと言われたのが起業のきっかけですね」。気密性・耐水圧性など、海という環境は機器開発の難度が高い。機器の自作に失敗して調査を断念する研究者たちを目の当たりにし、独立を決意した。ものづくりへの情熱が8割、研究者の役に立てる喜びが2割で設立4年目。国家プロジェクトで使われる大型機器まで任される、技術力の高さも折り紙付きだ。

|プロフィール| (写真・前列左)遠藤 保彦 さん 株式会社アクアサウンド代表取締役社長  1970年、東京理科大学工学部卒業後、古野電気株式会社に入社する。1990年までは、同社の研究所で水中音響研究開発に従事していた。それ以降は、医療機器の営業部に所属し、定年後も属託職員として勤務。しかし、世の中の需要に応える仕事をやりがいを持って臨みたいという思いから、2012年3月にアクアサウンドを設立。 (写真・前列中央)笹倉 豊喜 さん 株式会社アクアサウンド代表取締役会長  1973年に山梨大学大学院電子工学科を修了し、古野電気株式会社に入社。水中音響開発の開発部に所属し、その間に東京水産大学(現・東京海洋大学)で水産学博士号を取得。1997年に退職し、1999年には、ピンガーという小型水中発信器を専門に扱うベンチャー会社を起業。2012年に、遠藤さんらとアクアサウンドを設立した。
|プロフィール|
(写真・前列左)遠藤 保彦 さん
株式会社アクアサウンド代表取締役社長
1970年、東京理科大学工学部卒業後、古野電気株式会社に入社する。1990年までは、同社の研究所で水中音響研究開発に従事していた。それ以降は、医療機器の営業部に所属し、定年後も属託職員として勤務。しかし、世の中の需要に応える仕事をやりがいを持って臨みたいという思いから、2012年3月にアクアサウンドを設立。
(写真・前列中央)笹倉 豊喜 さん
株式会社アクアサウンド代表取締役会長
1973年に山梨大学大学院電子工学科を修了し、古野電気株式会社に入社。水中音響開発の開発部に所属し、その間に東京水産大学(現・東京海洋大学)で水産学博士号を取得。1997年に退職し、1999年には、ピンガーという小型水中発信器を専門に扱うベンチャー会社を起業。2012年に、遠藤さんらとアクアサウンドを設立した。

多様なニーズへの対応が会社と海洋研究の発展につながる

同社にはそんな技術力の高さと熱意に期待し、研究者からの多様な課題が持ち込まれる。「イルカの鳴き声を再生し、どんな反応を見せるか研究したい」という研究者には、イルカの発する広範囲の周波数を出力できるスピーカーをつくった。それぞれの研究テーマは世界に1つだからこそ、大量生産のニーズは見込めない。「1つの機器で見ると赤字になることもありますが、研究者のニーズに応えることを優先に機器開発に取り組めば、結果的にトータルで採算性がとれると考えています。我々の取り組む市場はニッチであり、多くの企業が参入してくることも少ないので、いたずらに競合を意識することもなく、研究者によりよい機器をお届けすることができると考えます。」と話す。同社は赤字になろうとも、研究者のニーズひとつひとつに対し、一緒に研究成果を出そうと機器開発に臨む。

アカデミアの発想とものづくりへの意欲は、新しい価値を生み出す

同社が一研究者のためにつくった製品は、海洋研究の発展とは別に新たな市場を生みつつある。今まで水中の音は、水の中に機器を入れないと録音できなかった。しかし、水族館の水槽で使用される分厚いアクリル素材の外から聴診器のように、音を録ることができる画期的な機器が開発された。水槽の前のパネルに画像や映像を映した時に、イルカが出した超音波の位置やタイミングを調べる事で、画像のどの場所に関心を持っているのか、イルカの知能の高さや認知能力を探る機器を作って欲しいという研究相談があったからだ。その売りを生かし、今後は水の中の生き物が出す音がリアルタイムで聞こえる展示などへの展開が予定されている。

採算性に縛られず、目の前の開発に全力を注ぎ、研究者の課題をひとつずつ解決していく。気づくとそこには、今までにないニーズが集まってくる。「研究者のみなさんには、もっと無茶な要望を持ってきてほしいですね。そんな課題を技術力でクリアする事こそが、私たちの楽しみですから」。彼らのものづくりへの情熱と研究者の研究への思いがあわさって、彼らも予期せぬ新しい価値が創造されていく。

(文 榊原香鈴美)

|プロフィール|

(写真・前列左)遠藤 保彦 さん
株式会社アクアサウンド代表取締役社長

1970年、東京理科大学工学部卒業後、古野電気株式会社に入社する。1990年までは、同社の研究所で水中音響研究開発に従事していた。それ以降は、医療機器の営業部に所属し、定年後も属託職員として勤務。しかし、世の中の需要に応える仕事をやりがいを持って臨みたいという思いから、2012年3月にアクアサウンドを設立。

(写真・前列中央)笹倉 豊喜 さん
株式会社アクアサウンド代表取締役会長

1973年に山梨大学大学院電子工学科を修了し、古野電気株式会社に入社。水中音響開発の開発部に所属し、その間に東京水産大学(現・東京海洋大学)で水産学博士号を取得。1997年に退職し、1999年には、ピンガーという小型水中発信器を専門に扱うベンチャー会社を起業。2012年に、遠藤さんらとアクアサウンドを設立した。