蔵を使ったみかんの貯蔵 秋澤史隆

蔵を使ったみかんの貯蔵 秋澤史隆

神奈川県の小田原は古くからみかん栽培が盛んな土地である。その小田原の地に江戸時代から300年以上続くみかん農園「あきさわ園」がある。現在でも昔ながらの伝統的手法にこだわりみかんを栽培する、あきさわ園 3 代目の秋澤史隆氏に話を伺った。

蔵を使ったみかんの貯蔵

蔵で貯蔵中のみかん。木箱も湿度を保つのに一役買っている。

蔵で貯蔵中のみかん。木箱も湿度を保つのに一役買っている。

海からの温かく湿った空気が吹き込む山間の小高い丘の斜面にあきさわ園はある。相模湾を一望できる風光明媚な景色の中、見渡す限りにみかん畑が続く。日当り、風通しがよくなるようみかんの木は一本一本剪定されており、手間をかけ手入れされた様子が伝わる。その所々に、歴史を感じさせる蔵が点在する。「この蔵ではみかんの貯蔵を行っています」と秋澤氏が解説してくださった。

収穫したてのみかんは酸味と甘味が最も高く、これを3 ヶ月ほど貯蔵することにより酸味だけが抜ける。果皮の着色にも関わり、みかんの品質を左右する重要な工程だ。また、保存の状態が良ければ品質の良いみかんを継続的に出荷できる一方で、湿度の調整に失敗すれば腐敗にもつながり、経営に影響する要素となる。現在ではコンテナや倉庫で電気による気温湿度の調整を行う生産者が増える中、あきさわ園では今でも蔵を使った貯蔵にこだわる。

自然環境を活かした構造

蔵は空気の通りやすい山の斜面に建てられており、蔵の中の空気が循環しやすい。壁面は土壁と漆喰で吸放湿性があるため、気温湿度が保たれる。みかんを入れる木箱にも、湿度を調節する働きがある。とはいえ、最適な状態にするには入り口や天窓の開閉、木箱の移動など労力を必要とするが、自然の状態で手間隙をかけることで、ハリとツヤを保ったまま貯蔵し美味しいみかんをつくれるのだそうだ。「自然と共に生き、昔ながらの環境と知恵を活かして、その土地と風土にあった農業と自然環境を次世代に繋げていきたい」と秋澤さんは語る。自然の地域特性を活かした、今ある乳牛、稲作、畑作など多岐にわたる若手生産者有志や自治体が協力し、地域一体となって地域と農業の新しい未来を開拓すべく奮闘を続けているという。