人と組織が育つ仕組みは、因数分解できるのか? 株式会社ENERGIZE
職業、コンサルタント。
合理的な判断を重ね続けることだけが仕事と思われている節もあるが、株式会社ENERGIZEの松井健太郎さんは、複雑なものを理路整然と理解したい、という理屈抜きの情熱に駆られて行動することもある。
今、彼にとって想像できる最も複雑なものの1つ、「人と組織が育つ仕組み」を新規事業のテーマとする挑戦に、興奮している。
暗中模索が日々の仕事
松井さんが参画している株式会社ENERGIZEは、今年立ち上げ6年目となるベンチャー企業だ。ベンチャー企業からいわゆる大企業まで、様々な企業を対象に継続的に収益を上げ続けるためのコンサルティングを軸に事業を展開している。
収益が増えて、かけるコストが減れば、企業はよりよい状態になる。
単純に聞こえるが、そのために何を改善すべきか、クライアントは自社のことですらわかっていない場合も多くある。もやの中にいて、どちらに進めばよいかわからないような状態から仕事がスタートすることが常。そこから、ヒアリングを丁寧に重ね、仮説を立て、検証を繰り返すことで、何を改善すべきかを根気よく整理していく。数えきれないほど繰り返したこの仮説検証のプロセスから獲得したノウハウがあるからこそ、松井さんは暗中模索の状況を楽しむことができる。コンサルタントの仕事は、研究者の毎日と驚くほど似ているのだ。
松井さんのキャリアを決定づけた出会いは、大学の研究室選択のときにあった。様々な研究室が研究紹介をする学内セッションの中の、ある研究室のデモ。それは、上空から落とした豆腐が、地面に当たって崩れる様子を忠実に再現したシミュレーションだった。重力、空気抵抗、豆腐の固さ・形状、含まれるタンパク質の状態、落ちる地面の固さや材質など、多くのパラメーターを正しく考慮すれば、現実と同じことがコンピューターで再現できるということが、わかりやすいかたちで提示されていた。
「今、起こり得る全てのことは、そこに関わる全ての要素が明らかになっていれば再現できる」という考え方に、松井さんは興奮した。一見ブラックボックスに見えることですら、その中にある要素を丁寧に明らかにすることができれば、恐れることはない。未知のものを解明するための考え方を、獲得した瞬間だった。
解決すべきは、より日常的な課題
松井さんが大学在学中の2000年代前半は、インターネット時代の転換点であり、情報技術が世界を変えると、誰もが感じた時代だった。そのさらに先の世界の可能性を研究することに、松井さんは純粋な知的興奮を感じていた。そこで選んだテーマは、量子コンピューター実現への理論と実践。量子コンピューターは0と1の組み合わせで表現される古典的なコンピューターとは原理が異なり、その中間の状態(0でもあり1でもある状態)を複数同時に扱うことができる。そのため、理論上は、大量の数を扱う計算を飛躍的に高速で行うことが可能になり、暗号解読や生成など、セキュリティ分野で無類の威力を発揮すると考えられている。
一方で、量子コンピューターが実社会に適用されるまで、まだ随分時間がかかりそうなことも事実だった。研究は、量子を人がどう制御するのか、基礎的なことを確立していくステージ。研究室にいた頃は、簡単な演算を行うことも量子コンピューターにはできなかった」と松井さんは振り返る。自分の時間と努力が、もっとダイレクトに実世界の課題解決に活きることに取り組みたい、という想いが強くなった。研究現場で得た、複雑な現象を理解する考え方を、社会にある課題解決に役立てようと、松井さんはアカデミアを離れ、産業界へ進んだ。
人と組織の成長を体系的に理解したい
就職したのはコンサルティング企業。他社の新規事業のサポートを業務として行った。「実際に何をサポートするかというと、結局は人なんですよね」と松井さんは当時を振り返る。テクニカルに新規事業の事業計画を作るということに加えて、人の働き方、仕事へのコミットの仕方を、どのように向上させるかに頭を使うようになった。その上で感じたのは、人や組織の成長を促す難しさだ。100人、100社あれば、そのまま100通りのやり方がある、といわれることもある。それでも松井さんは、複雑な系である量子コンピューターに取り組んできたように、人と組織の成長も、体系的に理解したいと考え始めた。
株式会社ENERGIZEの生嶋健太代表に声をかけられたのは、そんな時期だった。「人と組織がドラマティックにトランスフォームする機会の提供」を掲げていた生嶋さんに「一緒にやろう!」と言われ、すぐに意気投合した。松井さんは、自分自身の裁量で活動できる範囲が広いベンチャー企業という足場を得て、複雑なものを理解したいという欲求を、人と組織をテーマに追求できる状況が整った。
人、組織、社会の成長に関わる100の仮説を集めたい
入社して1年半。新規事業開発のような、より先が見えないリスクの高い分野へも果敢に挑戦するために、他社の新規事業サポートに特化した株式会社D-01を立ち上げ、松井さんはその取締役に就任した。そして現在は、その延長上に、アカデミアの研究者とのコラボレーションを考えている。
2015年9月、松井さんを中心に、株式会社ENERGIZEは「リバネス研究費 ENERGIZE人文・社会科学賞」を株式会社リバネスと共同で立ち上げた。この助成金は、「人、組織、社会の成長に関わる全ての研究」を対象としている。人、組織、社会は、どのような要素がきっかけとなって成長するのか。その未知の要素を、仮説というかたちでアカデミアから集積しようと試みる。「人や組織の成長というブラックボックスを明らかにしたい、と考えるチャレンジ精神旺盛な研究者と出会いたい」と松井さんは期待する。そして、集まってきた仮説を元に、新たな人材育成や組織開発事業の立ち上げを構想している。
量子コンピューターから人と組織の育成まで、複雑な系を解き明かすことに一貫して関わってきた松井さん。研究室、コンサルティング企業、ベンチャー企業と、活躍の場を移しながらも、複雑なものを理路整然と理解したいという欲求に、今も変わらず従っている。松井さんにとっての新規事業は、そうやって自身の芯をぶらさずに来た結果だった。新規事業のための新規事業ではなく、飽くまでも自分自身の拘りの先にあるものこそが、これからの新規事業なのかもしれない。
Presented by 株式会社ENERGIZE
|松井 健太郎 さん プロフィール|
東京大学工学部卒業後、コンサルティング会社を経て、事業会社で大手通信企業と共同で商品開発プロジェクトを経験。現在は、株式会社ENERGIZEのメンバーとして、また株式会社D-01の取締役COOとして、商品・サービス開発手法を研究する傍ら、クライアントとともに事業開発を実践している。
第29回リバネス研究費 ENERGIZE 人文・社会科学賞
募集分野
人、組織、社会の成長に関わる全ての研究(社会学、教育学、心理学、経済学、経営学、政治学、哲学、人類学、歴史学などの分野)
採択件数
若干名
助成内容
研究費50万円
応募締切
2015 年11月30日(月)24時まで
担当者より一言
人、組織、社会が持つ異なる個性や特徴を活かして、それらが成長していくための方法論は無限にあるはずです。私たちENERGIZE-GROUPは、人と組織の変革をサポートするコンサルティングを行って参りました。この度、人と組織の変革・成長に関わる、様々な学問分野からの研究を対象とした助成金を設置いたしました。将来的には、人文・社会科学の学問的知見と、私たちがこれまで経験してきた現場での実務や成果と重ねあわせることで、人・組織・社会の成長に広く貢献できるような産学連携の取り組みを構想しています。方法・学問分野は問いません。人と組織の変革・成長の研究の活性化に寄与すること、及び現場で検証できる価値ある仮説に出会えることを期待しています。
皆様のご応募お待ちしております。