未来をひらく! ユーグレナ今昔物語

未来をひらく! ユーグレナ今昔物語

 

 植物のように光合成を行い,動物のように動くことができる生き物,ユーグレナ。そのユニークな特徴が研究者の興味をかき立て,古くから研究の対象とされてきました。そして現在では,ユーグレナの光合成によるCO2固定能力の高さを利用して,地球温暖化を解決しようと「大量培養(たいりょうばいよう)」技術が開発されています。

 

これまでのユーグレナ研究史

体長は0.1 mm以下,単細胞のからだをくねらせる「ユーグレナ運動」を行い自由に動き回る一方,葉緑体を持ち光合成を行うユーグレナ。植物と動物の両方に分類されているふしぎな生き物です。初めてユーグレナを観察し,その記録を残したのは,顕微鏡の発明者であるアントニ・ファン・レーウェンフック。1675年のことでした。一般的には,葉緑体の主成分,葉緑素による緑色をしていますが,その他の色素によってオレンジ色や赤色をしたものも存在します。そんな小さな生き物が動き回る様子を見て,レーウェンフックは深く感動したといいます。

ユーグレナが近代生物学に登場したのは,レーウェンフックによる顕微鏡観察からおよそ270年後でした。体内に取り込んだCO2 を炭素源として炭水化物をつくる光合成反応に含まれる,カルビン−ベンソン回路の確立に用いられました。1961年には,その発見者にノーベル化学賞が贈られています。その後,光合成,葉緑体研究の重要な材料とされてきました。

このように,ユーグレナは300年以上も前から研究者の注目を集めてきたのです。

 

ユーグレナで温暖化を食い止める

これまで様々な研究が行なわれ,ユーグレナのユニークな特徴が明らかになりつつあります。そのひとつである,光合成を行なう際の「二酸化炭素(CO2)固定能力の高さ」に着目した研究者がいました。  地球温暖化の主な原因はCO2。ユーグレナを利用してCO2を削減すれば,温暖化を食い止めることができるかもしれません。ただし,ユーグレナは体長0.1 mm以下の小さな生き物です。一匹だけではもちろんのこと,少量のユーグレナではいくらCO2固定能力が高いといっても,温暖化への効果は期待できません。

 

「大量培養」の実現

そこで,より多くのCO2を固定するため,大きな容器の中でたくさん育てる方法が開発されました。これが,大量培養技術です。現在,沖縄にある直径30 mの大きな培養槽(ばいようそう)で,ユーグレナが生産されています。

ただ育てているだけ,と思われがちですが,この大量培養は簡単にできるものではありません。そのひとつの理由として,ユーグレナを餌(えさ)とする他の微生物が,培養槽に入り込んで増殖してしまうことがあげられます。これを防ぐためには,培地の栄養成分・pH・温度・培養槽に移すタイミングなどの条件をいろいろな組み合わせで試し,その中からユーグレナが優先的にふえる,最もいい条件を探し出すことが必要でした。多くの研究を重ね,ようやく実現できたのです。「大量に培養する」という,とてもシンプルなことに,たくさんの工夫が隠されています。

 

新しい技術でひらく未来

5000tのユーグレナが大量培養できれば,日本の火力発電所から1日に発生する4300tのCO2をすべて固定することができるといわれています。この技術により地球温暖化に歯止めがかけられるのではと期待されています。

ユーグレナの大量培養は,他にも可能性を秘めています。様々な栄養成分を含んでいること,植物細胞と違って細胞壁を持たないため消化されやすく栄養分が吸収されやすいことから,現在サプリメントの原料として,実際に使われはじめています。食糧のない国はたくさんあります。そこに,援助物資としてユーグレナを届けることによって人々に栄養を与える,そんなことも,近い将来実現するかもしれません。 (文・磯貝里子)