第13 回 日本抗加齢医学会総会 「アンチエイジングでつながる医学 —Share and spread Anti-Aging Medicine」

第13 回 日本抗加齢医学会総会 「アンチエイジングでつながる医学 —Share and spread Anti-Aging Medicine」

2013 年6 月28 日( 金) 〜30 日(日)
第13 回 日本抗加齢医学会総会
「アンチエイジングでつながる医学 —Share and spread Anti-Aging Medicine」

杏林製薬株式会社共催セミナー
「クルクミン最前線〜循環器とがんを中心に〜」レポート
クルクミンは、古くから天然の食用色素や香辛料、生薬として利用されてきたウコンの色素成分で、近年、様々な疾患に対して効果があるマルチターゲットな素材であることが明らかになってきた。たとえば、天然ポリフェノールの一種として強い抗酸化・抗炎症作用を有し、飲酒時に生成されるアセトアルデヒドを代謝する酵素を活性化するといわれている。ここでは、循環器とがんに焦点を当て、本学会の共催セミナーに登壇した2 人の専門医の最新研究動向について紹介する。

循環器編
高吸収型クルクミンによる心不全の分子標的治療

静岡県立大学薬学部
分子病態学講座
森本達也 教授

より良い心不全治療の開発に向けて
日本では、毎年数十万人の患者が心不全を発症するといわれている。心不全は主に、高血圧、冠動脈硬化症、心筋梗塞といった血管系疾患に起因し、心臓の収縮力低下、血液拍出の不足により、全身の血液循環量が保てなくなる。薬物療法により20 〜30%の延命治療は可能であるが、いずれは末期心不全から死亡に至ってしまうケースが多い。現在、末期心不全を発症した患者に対しては、心臓移植や再生療法を行うしか手だてがないが、この15 年間の施術例はわずか100 件程度と極めて少ない。再生療法が医療として確立されるのは、50 年〜100 年後ともいわれており、より良い心不全治療薬の開発と血管系疾患の発症リスクを低減する予防方法の開発が求められている。クルクミンがその一助となる可能性を探るため、心不全に対するクルクミンの作用メカニズムを検証した。

クルクミンによる心不全抑制メカニズムの謎に迫る
心不全の2大原因である高血圧、心筋梗塞のモデルラットを使って人為的に心肥大の状態を作りだすと、心臓の収縮機能が低下し、いずれ心不全期へと移行する。我々は心不全発症の詳細なメカニズムを解明することにより、新しい治療法を確立することを目的に研究を行ってきた。心不全の発症過程において、p300 というヒストンアセチル化活性(HAT 活性)をもつ酵素が過剰発現し、心臓特異的な遺伝子の転写を亢進して心筋細胞を肥大させることがわかっている。効率的な治療薬開発には、このp300 のHAT 活性阻害が有効であると考えられ、クルクミンは、モデルラットにおいてp300 のHAT活性を阻害、心肥大とそれに続く心不全を抑制することが明らかとなった。さらに、クルクミン療法の人体への適応を目指し、従来の心不全治療薬ACE 阻害剤との比較試験を行ったが、クルクミン投与はACE 阻害剤と同等の効果が得られること、両方を投与すると相加的な効果があることを見出したのである。

経口摂取の課題を超える、高吸収型クルクミン
クルクミン療法を進めるにあたり、最大の課題は、水溶性が低く、腸管からの吸収率が極めて低いため、大量に服用しないと有効な血中濃度が得られないことである。そこで、(株)セラバリューズとの共同研究により、超微細化・表面加工技術による高吸収型クルクミン製剤セラクルミンⓇを開発した。これを心筋梗塞ラットに投与すると血中濃度が60 倍にもなり、体重あたり0.5 mg という低用量でも、心筋梗塞後の心機能低下を有意に改善したのである。ヒトにおける臨床試験でも、経口摂取による血中クルクミン濃度が27 倍も改善した。2010 年には、世界で初めて、高血圧性心肥大患者にみられる心臓の左室拡張障害を改善することも示され、安価で安全なクルクミンが、心不全治療に貢献する日も近いと考える。今後も、より安全で、効率のよいクルクミンの臨床応用を目指していく。

 

 

がん編

前立腺がんの進行をいかに予防するか?

帝京大学医学部

泌尿器科学

井手久満 准教授

 

食の欧米化により急速に進む前立腺がんの危機

 前立腺がんの発症率は、高脂肪の食事文化をもつ北欧諸国で最も高く、アジア諸国では非常に低い。特に、大豆に含まれているイソフラボンやウコンの成分であるクルクミンなど、がんの予防効果があるというポリフェノールを食事の中で多く摂取してきた日本人は、1997 年時点の前立腺がん死亡率がWHO 加盟30 か国の中で29 番目であった。ところがここ20 年、日本における前立腺がん発症率が急激に増加し、2020 年には1995 年時の約6 倍、全がん種のなかでもっとも高頻度になるともいわれている。その理由は、ハンバーガーやフライドポテトなど脂質に富んだ欧米食文化の流入にあるようだ。ここでは前立腺がんの予防を目指し、イソフラボンやクルクミンががんに及ぼす効果を検証した。

イソフラボン、クルクミンが前立腺がんマーカーの産生を抑制

 前立腺がんの診断や治療効果の指標として広く用いられるのは、PSA(Prostate Specific Antigen 前立腺特異抗原)という、前立腺細胞で特異的に産生されるタンパク質の一種だ。前立腺がんが進行すると組織崩壊が起こり、PSA が血液中に漏れだす。血中PSA が正常値を超えた患者に対しイソフラボン40 mg、クルクミン100 mg を6か月間内服させたところ、PSA 値が有意に下がったという。この理由を調べるため、前立腺がん細胞株をシャーレで培養して、イソフラボン・クルクミン投与試験を行ったところ、イソフラボンだけでなくクルクミンをより多く投与した方が、PSA の産生が抑制され、細胞死(アポトーシス)を起こすことが明らかとなったのである。

イソフラボン、クルクミンによる前立腺がん増殖抑制のメカニズム

 前立腺がんの増殖は、精巣から分泌されるテストステロンという男性ホルモンが、前立腺細胞内でジヒドロテストステロンに代謝され、アンドロゲン受容体と結合してがん細胞の増殖を促進させる。一方で、ジヒドロテストステロン受容体複合体は、PSA の転写因子としても働くため、テストステロンの分泌量が増えると、がん細胞増殖し、PSA 濃度が高まることになる。イソフラボン・クルクミンの投与試験では、アンドロゲン受容体の発現量の減少がみられ、さらに、投与前後の遺伝子発現の変化を調べると、投与後にジヒドロテストステロンの分解を促進するAKR1C2 というタンパク質の発現が上昇していることがわかった。結果として、PSA の産生が抑制され、ひいては、前立腺がん細胞の増殖を抑えることが示唆されたのである。
また、がん遺伝子の活性化による細胞の異常増殖が始まると、DNA 複製ストレスや二本鎖切断が起こり、さらなるがん化や悪性化につながる。しかし、もともと人間の体には、これらの現象にブレーキをかける損傷応答メカニズム機構が備わっていて、DNA の修復や細胞死を誘導する役目を担っている。イソフラボン・クルクミンは、損傷応答メカニズムに関わるがん抑制タンパク質を活性化させ、DNA 修復やアポトーシスを誘導することが明らかとなった。

 このように、イソフラボンやクルクミンは臨床研究が急速に進んでいる食品成分である。長寿を全うするための秘訣としてサプリメントという選択肢ももつ現代。巷にはいろいろな製品が氾濫しているが、このような科学的知見・臨床試験に基づいたサプリメントによる健康維持・がん予防戦略に、大きな期待がかかっている。