【ノーベル化学賞発表!】小さい世界を見たい!その想いがナノ世界の観測を可能に
理科室でお馴染みの「光学顕微鏡」。約1000倍で、0.01mmのものを、1cmにして観察できます。これは、可視光の波長(360-830nm)と比べて大きいために可能なのですが、もし観察対象が、波長より小さければどうでしょうか。この場合、光が遮られた物体の後ろへ回りこむ「回折」が起こるため、像がぼやけてしまいます。そのため、可視光観察による光学顕微鏡の分解能は200nmと言われています。
2014年ノーベル化学賞をHell氏、Betzig氏、Moerner氏が受賞した理由は、ズバリ光学顕微鏡で「200nmという回折限界を突破したから」です。これによって、ウイルスやタンパク質など、生きた状態で観察することができるようになったのです。回折限界は波長の半分程度なため、より短波長の電子線を使う電子顕微鏡であれば200nm以下も観察できますが、真空環境が必要なため生きた状態では不可能なのです。では、一体どうやって限界を突破したのでしょうか。それは蛍光観察という手法は同じくし、それ以外は大きく異なる2種類のテクノロジーでした。
まず2000年にドイツのHell氏が発表したSTED顕微鏡を紹介します。これは、照射した光を受けて励起した分子に、STED光(短波長のレーザー光)を当てると蛍光が抑えられる現象を利用したものです。STED光をドーナツ状に照射し、その穴の部分だけで蛍光を発生させることで、200nm以下の領域を光らせることに成功しました。では、Betzig氏とMoerner氏はどのような技術を生み出したのでしょうか。それは、「蛍光分子に弱い光を当てると、明滅(ついたり消えたり)するという性質」を利用するものでした。200nmの分解能とは、「2つの点が200nmよりも近づくと、拡大像で区別できなくなる」ということです。Moerner氏は、200nmより近くても、明滅している写真を重ねることで区別できるという事を実験で証明し、それを装置として完成させたのがBetzig氏なのです。
今回受賞した分野は、1990年代から大阪大学の柳田先生が牽引してきた事でも知られていました。また、ナノ観測の技術も受賞した2つ以外に存在します。この3名が受賞したのは、技術の汎用性や、今後の可能性が他より高く評価されての受賞だったのではないでしょうか。次は、どんな「小さな世界」を見せてくれるか、今から楽しみです。
参考:http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2014/press.html
記者:伊地知 聡