[特集]そうじをしよう 生きていくために someone34号より
掃いたり,拭いたり,吸いこんだり—
私たちは家をそうじします
でも,
これってじつは,人だけではないんですね
虫だって,動物だって自分の家をそうじします
なんと,私たちのからだをつくっている,ちっちゃな細胞
ひとつひとつの中でも,そうじは行われているのです
「そうじ」
そこには私たちがまだ気がついていない世界が
広がっているようです
さぁ,一緒にのぞいてみましょう!
汚れと戦う私たち
もうすぐ大そうじの時期がやってきます。
学校でも家でも,そうじ用具を準備して新年を気持ちよく迎える準備に入るのではないのでしょうか。毎日使っていると,いろいろなところが汚れます。何もしなくたってチリやホコリはまります。そうじをしないと,身の回りが汚れでいっぱいになります。いかにこれらを取り除き,清潔に保つか……。
私たちは日々汚れと戦っています。その戦い方をいくつか見にいきましょう。
汚れをからめとる
床の上には糸くずやダニの死骸,髪の毛などが落ちています。そのような汚れをからめとって取り除くことができる素材がマイクロファイバーです。マイクロファイバーは,その名の通り「超極細の化学繊維」です。ポリエステルなどを約8μm
(マイクロメートル;1μmは1000分の1mm)以下の細さに加工したもので,繊維の断面を鋭角にすることで,汚れをかき取りやすくしています。さらに,電気が流れやすい導電性繊維も編み込むことにより除電もでき,拭いたところに静電気によって新たにホコリがくっつくのをえるようにすることもできます。
汚れをつつむ
清掃用品の売り場に行くと,ずらっと並ぶ洗浄溶液。台所用,窓用,トイレ用など,使う場所の用途によってさまざまなものがあります。洗浄溶液は界面活性剤の性質をもっています。界面活性剤とは,ひとつの分子の中に,水になじみやすい部分(親水基)と水になじみにくい部分(疎水基)があるものです。界面活性剤の分子の疎水基のほうが,油汚れを取り囲むようにくっつくことで,汚れを浮かせて取り除くことができるのです。
汚れを溶かす
洗浄溶液にときどき,オレンジやグレープフルーツなどの柑橘類の成分が入っているものを見たことがあると思います。これは柑橘系のいい香りをつけるためなのでしょうか。
じつは,このいい香りの正体は「リモネン」という柑橘類の皮に含まれている成分です。このリモネンには汚れを溶かす性質があります。しみなどの汚れは主に油分のため,疎水性のリモネンが汚れとよくなじみ,分解して表面上に浮き立たせることで油汚れをよく落とすことができるのです。
汚れを寄せつけない
外気にさらされているところは,空気中に漂う微生物や細菌,また風によって運ばれてきた微生物の死骸や砂ぼこりなどにさらされています。そのようなところに活躍するのが「光触媒」です。光触媒の表面に光が当たると,活性酸素という酸化力の強い物質がつくられ,細菌や微生物,生物の代謝物や糞を分解を分解することができます。種類もいろいろあり,酸化亜鉛(ZnO),硫化カドミウム(CdS),酸化タングステン(WO₃),二酸化チタン(TiO₂)といったものがあります。
光触媒にはもうひとつ,超親水性という性質があります。光触媒の塗ってある窓ガラスや鏡の表面に光が当たると,その表面が超親水性になり,付着した水滴は横に広がって膜のようになります。窓ガラスや鏡が水蒸気で曇ることがありますが,これは,ガラスの表面に細かい水滴がたくさん付着し,水滴ひとつひとつが光を散乱するためです。酸化チタンなどをガラス表面にコーティングしておくことで,水滴は一様に広がり薄い水の膜となります。そのため,光の散乱はなくなり曇らなくなります。超親水性の表面では水が表面と汚れの間に入り込み,汚れを浮き上がらせ,その結果,雨が降ったときに汚れが洗い流される働きもするのです。このことは,カビや藻が生えたりすることを防ぎ,清潔に保つことにつながります。こうした光触媒は現在,建物の外壁やビルのガラス,トンネル内の電灯や看板などに使われ大活躍しています。
このように,いろいろな手法で汚れと戦っている私たち。生活している限り,汚れはつきもの。そうじをするときに,このようなしくみや反応に想いをせるだけでも,そうじの時間が楽しくなるかもしれません。 (文・花里 美紗穂)